2021年11月18日(木)~19日(金)に開催されたZabbix Conference Japan 2021。今回で9回目を迎えたZabbix Conference Japanに、私たちアークシステムはスポンサー企業の1社として参加しました。

今冬リリース予定の最新LTSバージョン Zabbix 6.0を中心に、さまざまなテーマの講演がおこなわれたZabbix Conferenceの様子をレポートします。

Zabbix Conference Japanとは?

Zabbix Conference Japanは、Zabbixの開発元であるZabbix Japan LLCが主催する日本国内最大のZabbixイベントです。Zabbix Japan LLCのメンバーによる技術的な講演や実際にZabbixを利用しているユーザーの事例講演、Zabbixをより便利にする認定パートナーのソリューション紹介など、Zabbixに関してさまざまなテーマで講演がおこなわれます。

昨年に引き続き、今年も会場とライブストリーミング配信の同時開催でした。ライブストリーミング配信では講演中にリアルタイムで質問ができるサービスが用意されており、オンラインのメリットを最大限活用する工夫がおこなわれました。会場では新型コロナウイルスの感染予防の取り組みとして、座席間隔の確保・受付のアクリルパーテーションやサーマルカメラの設置・座席やドアノブなどの定期的な除菌・会場の換気などが徹底され、安心して参加できました。

当日のアジェンダおよび講演内容については、Zabbix Conference Japan 2021の公式サイトでご覧いただけます。
https://www.zabbix.com/jp/events/conference_japan_2021(外部サイトへ移動します)

最新LTSバージョン Zabbix 6.0

今冬リリース予定である最新LTSバージョンのZabbix 6.0について、多くの講演がおこなわれました。

Zabbix 6.0の新機能

Zabbix 6.0で実装予定の新機能について、いくつかの機能がピックアップされて紹介されました。

ダッシュボードのレポート機能

Zabbix 5.4から、ダッシュボードにスクリーン機能が統合されました。ダッシュボードで確認できるグラフやマップなどの情報を、PDFレポートとして定期的に電子メールで送信できる機能が紹介されました。

アノマリー検知とベースライン監視

新しい障害検知として、「アノマリー検知:過去のデータから”通常と異なる”ことを検知する」「ベースライン監視:過去のデータの繰り返し期間の平均などを計算する」方法が実装されると紹介されました。

ZabbixサーバーのHAクラスタ機能

ZabbixサーバーのHAクラスタ機能については多くのユーザーが関心を持っていると思います。本機能を利用することで、標準機能でActive-Standby冗長化構成のZabbixサーバーを構築できると紹介されました。

これまでもZabbix Japan LLCは、サポートサービスを契約しているユーザー向けに公式ツール「設定バックアップツール」を利用したActive-Active冗長化構成の構築方法を提供してきました。ユーザーが求める可用性のレベルに応じて、選択肢が増えたことでさらにZabbixを導入しやすくなったと感じました。

インストール・構築時のポイント

Zabbix 6.0をインストール・構築する際のポイントとして、動作要件の変更や各種設定の留意点などが紹介されました。

ソフトウェアサポートされるバージョン
MySQL8.0.X
Oracle19c – 21c
PostgreSQL13.X
MariaDB10.5.X – 10.6.X
TimescaleDB2.0.1 – 2.3
Apache1.3.12以上
PHP7.2.5以上

データベースについては古いバージョンがサポート対象外となりましたが、海外の事例で「古いバージョンのデータベースを利用していた環境で、データベースを最新のものにバージョンアップしただけでパフォーマンスが改善された」ケースがあったことが理由のひとつとして紹介されていました。

PHPについては7.2.5以上に動作要件が変更されていますが、PHP 8には対応していないという留意点も紹介されていましたので、あわせてご認識おきください。

また、各種設定の留意点として、ダッシュボードのレポート機能を利用する場合、メモリ消費量が増加するためスペックを上げる必要性があることなどが紹介されました。

このようなポイントを実際に開発にも携わっているサポートメンバーから直接聞けるのも、Zabbix Japan LLC主催のイベントに参加するメリットだと思います。

アップグレードの考え方・留意点

Zabbixは、ユーザーからの声を反映しながら各バージョンで多くの機能が追加されてきました。上位バージョンへバージョンアップすることで、以下のようなメリットがあると紹介されました。

  • より効率良く監視を設定できること
  • 以前はスクリプト作成が必要だった実装が標準機能で実装できること
  • 新機能を活用した運用の効率化ができること

バージョンアップしたあとも従来の監視設定・運用のまま利用し続けるユーザーも多いと思いますが、バージョンアップをきっかけに監視設定・運用を見直すことを提案されていました。

また、バージョンアップの留意点については、以下の観点が紹介されました。

データベースの自動変換機能で変換されないアイテムなどの修正について

Zabbix 4.0から非推奨となっていたポジショナルマクロ(位置マクロ)変数など、自動で変換されないアイテムについては修正が必要です。手作業の修正が現実的でない場合はZabbix APIを活用して自動的におこなうことを推奨されていました。

ZabbixサーバーとZabbixプロキシ・Zabbixエージェントの互換性について

Zabbixプロキシは必ずZabbixサーバーのバージョンと同じバージョンにする必要があります。Zabbixエージェントは、Zabbixサーバーのバージョンより低い場合は動作するため、必ずZabbixサーバーを先にバージョンアップすることが推奨されていました。

公式ドキュメントに掲載されている情報について

Zabbixはバージョンごとに公式ドキュメントが用意されています。(Zabbix 3.0以降は日本語のドキュメントはありませんので、英語もしくは他の言語のドキュメントをご確認ください。)
https://www.zabbix.com/manuals(外部サイトに移動します)

新機能については「What’s new」、バージョンアップにおける変更点や互換性については「Upgrade notes」、Zabbix APIの変更点や互換性については「Zabbix API changes」に記載されています。また、複数のバージョンをまたがってバージョンアップする際には、各バージョンのドキュメントを確認する必要があることは、留意点として紹介されていました。

10周年を迎えるZabbix Japan LLC

2022年に、Zabbix Japan LLCは設立10周年を迎えます。

Zabbix Japan LLC CEOの寺島 広大氏からは、設立からこれまでの振り返り、また10年目に向けた取り組みについて講演がありました。

年々勢いを増すZabbix

寺島氏は、Zabbix Japan LLCを設立した2012年を振り返り「オープンソースでビジネスが成り立つのか?」という声が多かったと振り返っていました。当時はそのような意見もあったようですが、設立から現在までZabbixビジネスは拡大し続けていて、Zabbix関連サービスの提供をおこなう認定パートナー企業の数は60社近くまで増加していることが紹介されました。

これからも「オープンソース」で在り続けながらより多くのユーザーにZabbixを利用してもらうため、10周年に向けたZabbix Japan LLCの取り組みについて紹介されました。本レポートでは、サポートサービスに関するトピックを紹介します。

Zabbixを支えるサポートチームのミッション

Zabbix Japan LLCのサポートチームでは、以下のミッションをもって日々サポートをおこなっていると紹介されました。

  • 技術力のあるエンジニアが直接対応をおこなう
  • Zabbixに関係する問題であれば、可能な限り調査解析する
  • Zabbixのバグは修正する

「お客様と会話することを重視しエンジニアが直接対応すること」「できる限りサポートの範囲外とは言わず問題解決を手伝うこと」「見つかったバグについては開発チームとも連携し修正をおこなうこと」を念頭にサポートをおこない、Zabbixというソフトウェア自体の改善とサポートチームの技術力向上を目指しているとのことです。

各種OS・ソフトウェアの進化が早くなっていることやクラウド環境での利用が増えていることで問い合わせの難易度は高くなっているとのことですが、これからも安心してZabbixを利用し続けられるようサポートチームも日々進化していると感じました。

サポートサービスの付加価値向上

ユーザーからの声を反映しながら進化し続けるZabbixですが、新たな機能が増える一方で使いこなすことが難しくなっている一面もあると思います。

サポートサービスでは従来のお問い合わせへの対応だけでなく、ユーザーにZabbixをより理解してもらうための新たな取り組みを検討していると紹介されました。Zabbix Japan LLCが提供しているトレーニングに、サポートサービスを契約しているユーザーは無償で参加できるようにするなどの施策を検討しているとのことです。

Zabbix 6.0の正式リリースまでにはもう少し具体的な内容を発表すると仰っていましたので、詳細については続報をお待ちください。

事例講演の紹介

Zabbix Conference Japanでは、Zabbix Japan LLCのメンバーからの技術的な講演以外にも、実際にZabbixを利用するユーザーの活用事例や導入事例などの講演もあります。

民間企業の情シスが本当に欲しいZabbix 〜西川ゴム工業株式会社の導入事例〜

株式会社OFFICE-HAYASHI  代表  林 聡  氏

株式会社OFFICE-HAYASHIの代表 林 聡氏から、監視システムを未導入の民間企業にZabbixを導入してみてわかった「民間企業の情シスが本当に欲しいZabbix」について、西川ゴム工業株式会社様への導入経験を例に講演がありました。

「製造業のお客様なので、製造ラインが止まると損害に直結してしまう。システムの安定稼働を守らないといけないのが情シスの使命だった。」(林氏)

Zabbix導入前は、ユーザーからの入電で障害発生を知りそこからヒアリング・1次切り分け・調査開始と、障害対応を開始するまにかなりの時間を要していて、ダウンタイム・損害も大きくなるといった状況だったそうです。
ユーザーからの入電ではなく情シスが自ら障害を検知しユーザーへアナウンスするために、まずはZabbixの導入を決めたと当時を振り返っていらっしゃいました。

Zabbixを使い込む中で「実際にどの場所で、どの機器が不具合・障害を起こしているのかをいち早く知られるマップが必要」と感じるようになり、「ロケーションマップ」の作成を決めたそうです。各拠点のフロア図やラック図までを確認できるようにサブマップまで作りこみ、障害箇所や影響範囲の特定までの時間を大幅に短縮できたということです。

また、導入時に気を付けたこととして、以下の観点が紹介されました。

  • なるべく標準機能で構築する(=シェルやスクリプトを作りこまない
  • 目線は情シス初心者に合わせる(=情シス管理者の運用負荷軽減
  • 使い勝手の良さを重視する(=カスタマイズしたロケーションマップの作成

Zabbix 5.0から実装されたWebhookとの連携機能をはじめ、Zabbixの標準機能でできることはますます増えています。構築する側・運用する側のどちらにとっても使いやすく、これからも進化し続けてほしいです。

Zabbix 応用事例集の紹介~Zabbixの既存機能を使い倒す!~

NTTコミュニケーションズ株式会社  田中 武信 氏

NTTコミュニケーションズ株式会社の田中 武信 氏からは、Zabbixの既存機能を利用した5つの「面白い」実装事例が紹介されました。

トリガーの依存関係をテンプレート化する

標準機能では設定が煩雑なトリガーの依存関係を、少ない操作で依存関係に相当する設定をおこなえる方法とその留意点が紹介されました。

LLDを用いて任意のアイテムを作る

LLDのルールを「Zabbixトラッパー」に設定し、zabbix_senderコマンド を用いて任意のアイテムを作成する方法が紹介されました。
例えば、「構成管理システムの情報などから入力データを生成して監視項目を自動生成させる」などの活用ができます。

ダッシュボードをWebアプリのUIとして使う

多くのユーザーから要望が出る「XML形式からCSV形式への変換」について、ダッシュボードのウィジェットとしてWebページが表示できる「URLオブジェクト」を活用した実装方法が紹介されました。

GPS情報の取得と利用方法

Zabbix 2.0から用意されている位置情報(緯度・経度)を保存できるカラムを利用した、Zabbixに位置情報を格納する実装のノウハウが紹介されました。

スマホを監視する

最後に、動作/安全性などを保証するものではありませんが、Zabbixでスマホを監視するという実験的な内容も紹介されました。

「Zabbixは既存機能でも非常に使えるものはたくさんある。アイデア次第でいろいろな使い方ができる。」(田中氏)

タイトルのとおり、Zabbixの設定を作りこみ幅広くZabbixを活用されているNTTコミュニケーションズ様ならではの講演でした。

その他にも、Zabbix Japan LLCの開発・サポートメンバーによる検証事例や認定パートナー各社によるZabbixを利用したシステム運用を便利にする関連ソリューションの紹介がおこなわれました。

当日の講演内容の詳細は、以下のZabbix Conference Japan 2021 公式サイトをご覧ください。
https://www.zabbix.com/jp/events/conference_japan_2021 (外部サイトへ移動します)

当社のスポンサー講演

当社は本イベントのスポンサー企業として、2日目に講演しました。

「システム監視だけではもったいない。Zabbixがあなたにピッタリのお部屋を探します!」と題しまして、Zabbixをより身近に感じてもらえるよう「住まい探し」をテーマに、Zabbixの活用方法を紹介しました。

高い機能性と柔軟なカスタマイズが可能な拡張性をもったZabbixは、システム監視だけでなくさまざまな活用方法があると思います。今回はお部屋探しサイトからスクレイピングで情報を取得し、Zabbix APIを用いて取得した情報をZabbixへ取り込むことで、Zabbixが自動的に物件情報を取得する実装を紹介しました。

講演では紹介しきれなかった内容は、当社の技術ブログで紹介しています。以下にリンクを添付しますので、よろしければご一読いただけますと幸いです。
システム監視だけではもったいない!Zabbixがあなたにピッタリのお部屋を探します!

上記の記事では、「大気汚染情報」や「神奈川県の雨量水位状況」の監視の実装例を紹介しています。今回紹介しました実装以外にも、Zabbixはさまざまな連携が可能です。例えば、Zabbix 5.2からはIoT機器で利用される通信プロトコルのModbus・MQTTのアイテムが追加され、センサーなどのIoT機器やスマート家電とも連携できるようになりました。今後、より多くの場面でZabbixが活躍することになると思います。

おわりに

いかがでしたでしょうか。Zabbix Conference Japan 2021の参加レポートは以上です。

今年のZabbix Conference JapanはZabbix 6.0に関する講演がメインでしたので、早く触ってみたくなった人も多いのではないでしょうか。Zabbix 6.0は今冬に正式リリース予定ですので、今しばらくお待ちください。

最後まで読んでいただきありがとうございました。
それでは、来年またZabbix Conference Japan 2022でお会いしましょう!


株式会社アークシステムはZabbix Japan LLCの認定パートナー企業です。
Zabbixに関する製品・サービスの販売に加え、Zabbix関連サービスの提供をしています。
(2018年度からZabbix認定パートナー幹事企業の1社として活動しています。)

運用管理技術のプロフェッショナルであるアークシステムが
Zabbix環境におけるさまざまな課題を解決いたします

当社の価値はお客様のビジネスを支える高度なIT技術や運用基盤の提供にあります。
お客様の課題や問題意識を受け止め、IT戦略/企画の立案、実行性のある計画作成から運用整備とデリバリーまで、さまざまな形態のサービス提供をしています。これまで培った運用管理技術とZabbix技術の豊富なノウハウと実績をもとに、実運用に耐えうる高品質なZabbix環境の構築や課題解決をいたします。