株式会社ワイヤ・アンド・ワイヤレス 様

複数バージョンをまたがったバージョンアップの確実な実施

株式会社ワイヤ・アンド・ワイヤレス
ネットワーク技術本部 Wi-Fi基盤チーム
石黒 裕之 氏
難波 俊光 氏

KDDIグループにおける「公衆Wi-Fi専門通信事業者」として、日本全国のWi-Fiスポットを構築・運営するとともに、自社ブランドサービスとしても公衆無線LANサービス「ギガぞうWi-Fi」や「Wi2 300」を提供されている株式会社ワイヤ・アンド・ワイヤレス(以下、「Wi2」という)様。Wi2様は新技術の導入に取り組まれると同時に、これまで培われた技術と通信基盤を活用し、快適で安心安全な公衆無線LANサービスを提供しています。

01

導入前の課題

サービス品質を担保する
監視システムのバージョンアップにおける懸念

Wi2様の公衆無線LANサービスは、日本全国の公共施設や公共交通機関、飲食店などに導入されています。また、災害時の通信手段や訪日外国人向けのインターネット接続サービスとして、社会インフラの中で大きな役割を果たしています。高品質かつ安定的な公衆無線LANサービスの提供には、システムの正常性を常に監視することが欠かせませんが、その重要な役割をZabbixが担っています。

このような状況下で、Wi2様はサービス提供規模の拡大に伴う設備の見直しをきっかけに、これまで以上に高いパフォーマンスが期待できるZabbixへのバージョンアップの検討を開始されました。しかし対象となるZabbixは、複数のZabbixプロキシや独自に実装されたスクリプトが多数稼動している環境であり、通常稼働をしながらのバージョンアップに向けた確実な作業のために、より専門的知識を必要とされていました。

02

選定・導入決定ポイント

懸念点をクリアにし、
確実なバージョンアッププランを策定

サービス影響への懸念を解消し確実にバージョンアップをおこなうべく、Zabbix認定パートナーである当社にご相談いただきました。

当社は初回の打合せから複数のバージョンアップ案件を担当した実績のある技術者も交え、Zabbixの監視環境の現状をヒアリングし、Wi2様が抱えていたバージョンアップに関する課題や懸念事項について質疑応答を重ねました。そして、難易度の高いバージョンアップとなることを踏まえて、監視対象であるサービスの確認を含め、Zabbixのバージョンの正確な現状把握の必要性から、バージョンアップを実施する前に考慮すべきことを入念に整理・検討するための調査フェーズを設けることを提案いたしました。そのうえで、Wi2様のご要望である「コストは考慮しつつ、期日までにバージョンアップを完了させるデリバリー」を実現するため、Wi2様と当社の協力体制をベースにした最適なバージョンアッププランを策定いたしました。

デリバリー面

  • 今回実施するバージョンアップはZabbixサーバーおよびZabbixプロキシを対象とし、Zabbixエージェントのバージョンアップは別フェーズで実施する
  • 調査フェーズの中で、データベースに格納されたデータの増大に伴うパフォーマンスへの影響リスクなどが明らかになったが、バージョンアップしたZabbixによる監視運用を開始することを優先し、データベースのパーティショニングなどの性能対策は次フェーズでの対応とする

コスト面

  • 独自に実装したスクリプトの修正など、お客様に実施いただくほうが効率的な作業はWi2様にメインで担当いただき、当社はZabbixおよびバージョンアップ固有の知見・ノウハウを必要とする作業を担当する形で協力体制のもとバージョンアップを実施することで、コストの増加を抑える

打合せを重ねる中で、Wi2様の懸念をひとつひとつ解消し、コストとデリバリーのバランスを最適化したバージョンアッププランを提案できたことや、当社技術者との会話を通じて豊富なバージョンアップ実績にもとづく知見・ノウハウをご評価いただいたこともあり、当社にバージョンアップ作業をご依頼いただくことになりました。

03

導入決定から本番稼働までのプロセス

初動の現状分析を迅速におこない、
課題を共有しながらもコストとデリバリーを優先した施策決定

「複雑化した現状から、スムーズかつ確実に設備更改を実行するためのサポートが必要である」点に対する支援を重視し、まずはWi2様の監視環境をしっかり確認するための事前調査フェーズを設け、その中でバージョンアッププランを策定するという2段階での対応方針を提案し、採用いただきました。

事前調査フェーズの概要

当社のエンジニアがWi2様Zabbix監視環境にログインできるようご準備いただき、ZabbixサーバーとZabbixプロキシの状況を網羅する形で課題の抽出を行い、バージョンアッププラン策定に対するインプットとしています。

  • 各種ソフトウェアのサポート期限と、構成のバリエーションが多いことによる管理負荷
  • 冗長性(可用性確保)の強化
  • Zabbixサーバーの性能劣化リスク対策
  • 増大した外部スクリプトの整理(一部の外部スクリプトのZabbix標準機能としての取り込み)

バージョンアッププランの提案と策定

事前調査フェーズで抽出した課題をすべて達成しようとすると構築期間が長期化してしまうことを踏まえ、Wi2様のQCDを前提にデリバリーならびにコストを重視した形でのプラン策定となりました。

監視環境構成の統一
  • OSのバージョンを新しいもので統一
  • データベースエンジンのアップグレードを実施
  • OSならびにネットワーク接続環境の構築はWi2様が担当
可用性の強化
  • ZabbixサーバーはActive-Standby(Pacemaker/Corosync)方式で可用性を確保、不具合発生時における自動フェイルオーバーも可能な構成で構築
  • Zabbixサーバー用データベースはレプリケーション構成を維持しつつ、こちらも自動フェイルオーバー可能な構成で構築
  • Zabbixプロキシ障害時のリカバリは比較的容易であるため、現状通りとする
Zabbixサーバーの性能劣化リスク対策
  • Webサーバー機能の分離が性能改善に寄与できる見込みが少ないため、構築台数の総数を減らす
  • 履歴データの保存期間を短縮し、運用に必要な最低限の期間とする
外部スクリプト移行の対策
  • コストとデリバリーを重視するため、全てのスクリプトをひとつひとつ調査・選定してから移行するのではなく、一括コピーした後に動作確認をする対応を整理して移行を進める
  • 運用に関連する処理が多いため、スクリプトの動作確認はWi2様が担当する
その他
  • バージョンアップ後に変更が必要な監視設定は、運用に必須となる部分のみ対応する
  • Zabbixエージェントのバージョンアップは見送る(旧バージョンのままでも互換性があり、動作するため)
  • 移行作業中における監視データの欠落を最小限にするため、監視設定変更の凍結期間を設けて移行を対応
  • プロジェクト期間中にリリースされる予定のZabbix次期バージョンではなく、プロジェクト開始時点の安定バージョンで進める

公衆無線LANサービスという重要な社会インフラを支える監視システムであるため、要求機能やサービスレベルを維持向上しながらコストならびにデリバリーの条件を達成する方針に沿ったプランとしています。また、Wi2様のご協力もあり全作業をリモート接続環境下で実現し、昨今の社会情勢・動向に対応したプランとなっています。

バージョンアップ作業の概要と勘所

今回ご要望いただいていたバージョンアップでは、大幅な機能アップによって発生した内部構成の複雑化に対応する必要があり、ほとんどのケースにおいて単純なミドルウェアの入れ替えだけでは対応できません。数々のZabbix環境をバージョンアップしてきた中で、これまでに培ったノウハウを組み合わせ各種要望に応えてきた当社のナレッジを最大限に生かし、より確実な作業計画に落とし込み実施いたしました。

  • さまざまなLinuxバージョンやミドルウェアバージョンに対応できるノウハウを用いた高可用性環境の構築
  • データベースエンジンのアップグレードと影響を考慮した移行プランの策定
  • Zabbix起動時に実行されるアップグレード・プロセスで、バージョンアップにより対応不可となる事象への対処
    • トリガー系マクロの動作仕様変更に伴う書き換え
    • アップグレード・プロセスによって無効となるアクションのカスタム条件式を検証して対策
    • アクションにおけるメンテナンス期間外設定の削除と実行保留設定への対策
    • その他諸々の動作設定変更

バージョンアップと構成変更に伴い発生する各種事象への対処においてもWi2様には良好な協働体制を構築いただけたことでスムーズな情報共有と作業連携が図れたこともあり、無事に新バージョンへの切り替えを完了することができました。

04

導入効果や製品・サービスの評価

バージョンアップだけでない、
Zabbixと周辺技術に関する
幅広い知見や実践的ノウハウの提供

事前調査フェーズを設けバージョンアップにおける作業コストを精緻に見積もり、Wi2様と当社で役割分担を明確にした協力体制のもと、当初の予定どおりのスケジュール・コストでバージョンアップを完了しました。

今回のバージョンアップだけでなく、これまで当社が手掛けてきた各種システムの構築実績など、周辺技術に関する幅広い知見やノウハウを活用することで、旧環境では実現できなかった冗長(可用性確保)構成の構築など、より耐障害性に優れた監視環境を提供することができました。また、コスト低減と確実なデリバリーを優先し今回スコープから見送った項目についても、今後Wi2様にて継続改善いただけるよう、有用な情報提供という形でアドバイスも実施いたしました。単にバージョンアップを支援するだけではなく、当社が保有するZabbixならびに周辺技術の試験・ノウハウを十分に活用する形でWi2様を支援できたことが、本プロジェクトの重要な成功要因と考えております。

05

同様な課題を持つ企業へ

稼働中サービスに影響を与えることなく
確実なバージョンアップを希望されるお客様に

バージョンアップをご検討中のお客様の中には「バージョンアップすることで、現状の監視運用環境への影響に懸念がある」というお客様も多くいらっしゃると思います。

当社では、複数バージョンをまたがったバージョンアップの実績が豊富にございますので、各バージョンで変更された機能や修正が必要な監視設定など、バージョンアップにおいてお客様が気にされるポイントを熟知しています。お客様がご利用中のバージョンに応じて、最適なバージョンアッププランを提案できることが当社の強みです。

バージョンアップにあたり何から検討を始めればよいか分からない、どのような影響が出るのか分からないなどのお悩みを抱えていらっしゃるお客様は、まずは当社にご相談ください。お客様の懸念を解消するため、経験豊富な技術者が丁寧にコミュニケーションさせていただき、お客様にとって最適なバージョンアッププランを策定いたします。

※ 掲載内容ならびに社名等の記載は、取材当時のものです。

ご利用いただいた主なサービス

バージョンアップ作業支援

日々進化を続けるZabbixにおいて、運用中のZabbix環境がサポート・サービス終了(EOL / EOSL)を迎え、バージョンアップの必要性に迫られるときには、バージョンアップ後…

高可用性環境構築サービス

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