Zabbix × アークシステム
Alexei Vladishev 氏、寺島 広大 氏 インタビュー


2019.10.14/Riga, Latvia

オープンソースの監視ソフトウェアとして日本で着実にシェアを伸ばしている「Zabbix」。先日新バージョンである Zabbix 4.4 がリリースされたばかりで、来年春には次期 LTS バージョンである Zabbix 5.0 の発表を控えています。

今回、当社メンバーは2019年10月にラトビアで開催された世界最大の Zabbix イベント「Zabbix Summit 2019」への参加にあわせて、Zabbix の生みの親である Zabbix LLC の Alexei Vladishev CEO(以下、Vladishev 氏)と、Zabbix Japan LLC の寺島 広大 代表(以下、寺島氏)にお話を伺いました。

Zabbix LLC
創設者兼CEO アレクセイ・ウラジシェフ(Alexei Vladishev)氏

Zabbix Japan LLC
代表 寺島 広大 氏

—Zabbixの予兆監視について

アークシステム 新井(以下、新井):今日はよろしくお願いいたします。当社のお客様では Zabbix での予兆監視に関する要望が増えています。Zabbix の予兆監視について、今後機能を強化する予定はありますか?

Vladishev 氏:予兆監視、つまり監視の自動化は現状では実現ができていませんが、監視を考える上で重要なトピックになりつつあると思います。

われわれは Zabbix のコスト効率を高め、皆様にとっての最高の監視技術を提供する必要があります。そのために、人に依存することなく自動的に障害を検出する仕組みが必要と考えています。これは Zabbix の将来のバージョンで考えなければいけない最優先事項の1つです。

新井:Zabbix で予兆監視を行うためには Forecast 関数を利用しますが、Forecast 関数を利用する場合の注意点はありますか?

Vladishev 氏: Forecast 関数がよく利用されているのはシンプルなストレージ容量の予兆監視です。ストレージの空き容量が枯渇する前に障害として検知できるため、ストレージのキャパシティプランニングに役立ちます。キャパシティプランニングは Zabbix の利用にあたって非常に重要な要素の1つでもあります。

—Zabbix でのジョブ管理機能について

新井:では次の質問ですが、日本では以前から声が挙がっているジョブ管理の機能についてです。今後 Zabbix にジョブ管理機能を実装する予定はありますか?

Vladishev 氏: そうですね…この話はだいぶ前からあって、ジョブ管理機能は日本のお客様から非常に要望が高いという事を理解していますが、日本市場には Zabbix パートナー各社が提供するものを含め、多くのジョブ管理ソリューションが存在しています。

ジョブ管理については Zabbix の追加機能として実装するのではなく、それら各社のソリューションを利用していただくことでも実現ができます。私たちはあくまで監視機能に重点をおいて Zabbix を開発しているので、ジョブ管理の機能の追加実装は考えていません。

今後の状況次第でこの方針が変わる可能性はあるかもしれませんが、少なくとも現時点では Zabbix は監視機能に特化していきたいと考えています。

新井:なるほど。日本ではジョブ管理のリクエストは数多くありますが、他の国ではそういった要望はあまりないのですか?

Vladishev 氏: 他の国ではジョブ管理機能が課題解決のヒントになることはあっても、ほとんど要望が挙がってこないのが実情です。お客様の社内システムがクラウドに移行していくことで、ジョブ管理の機能はそのクラウドのマネージドサービスとして提供されていくのではないでしょうか。

ジョブ管理の機能は多くの場合、仮想的な処理になるため、非常に難しいと思っています。仮想的な処理というのは例えば金融業界における明細書処理のようなもので、前処理と後処理の関連性を事前に確実に担保する必要があるような処理です。

ですので、ジョブ管理機能は非常に重要なトピックであることに変わりはなく、それは日本市場以外においても言えることだと思っています。

寺島 氏:オープンソースのジョブ管理ソフトウェアだとドイツの JobScheduler というものが有名ですが、知っていますか?

Vladishev 氏: もちろん知っています。ジョブ管理機能以外にも cron を拡張したような機能があり、日本に限らず世界でも利用されていることは知っていますが、やはり日本ほどの要望は他の国からは挙がってきていない状況です。

寺島 氏:ジョブ管理ソフトウェアは金融系の大企業などで利用されることがありますが、日本には監視機能も包括した商用のジョブ管理ソフトウェアがあります。日本のユーザーは監視機能だけでなく、ジョブ管理機能のランニングコストを削減したいと考えるため、Zabbix にジョブ管理の機能追加を要望しているのかもしれません。

Vladishev 氏: そうですね。私もそう思います。

—Zabbix Cloud について

新井:次に、今後グローバルでのリリースを検討されている Zabbix Cloud について、お伺いします。Zabbix Cloud を利用するのにコストは掛かりますよね?

Zabbix Cloud
Zabbix の機能を SaaS 形式で提供する Zabbix の新サービス。
まずはグローバル向けに提供が検討されているが、日本での提供含め、サービス開始時期は未定。

Vladishev 氏: もちろん、有償での提供を想定しています。

新井:試用版のようなものは提供されるのでしょうか?

Vladishev 氏: はい、試用版として以前β版の提供をしていました。このβ版はしばらく前に、希望のあった一部ユーザーを対象に、Zabbix Cloud が適切に利用できるかどうかを確認するために提供していたのですが、現在は利用できなくなっています。ユーザーからのフィードバックを受けて、SaaS で提供するためのさらなる改修を行っているためです。

Zabbix を SaaS で提供するためには、まだまだ足りない機能があると感じています。例えば、現在の Zabbixではスクリプトを用いて監視機能を拡張するということができますが、SaaS 形式での提供となると OS 部分をユーザーが触れなくなるため、ユーザーが自由に機能を拡張できないという制限が出てきてしまいます。

また Zabbix 社の社員がクラウド技術に慣れていないため、Zabbix をフルマネージドサービスとして安定して提供できるようにするためのオペレーションも考えていかなければならないと思っています。

さらに、従来のソフトウェア配布形式と SaaS でのサービス提供形式では、ビジネスモデルも大きく異なるため、認定パートナー各社と Zabbix 社でのビジネスのすみ分けをどうするかなど、課題がまだまだあるのです。

新井:では、まだサービスメニューや費用などは決まっていないのですね。

寺島 氏:もともとメニューや費用は検討していましたが、現時点ではまだ決まっていません。

新井:承知しました。Zabbix Cloud については、当社のメンバーや日本国内のパートナーの中でも気にしている方が多かったので、お聞きしたかったのです。

寺島 氏:日本のパートナー各社の中では Zabbix Cloud がリリースされることによって、既存のビジネスモデルに影響が出ることを心配している方々もいらっしゃいますからね。

Vladishev 氏:そうですよね。分かります。

新井:少し答えづらい質問かもしれませんが…日本市場における Zabbix の優先順位についてどう思われますか?また日本市場における将来的な計画がありましたら、可能な範囲で教えてください。

Vladishev 氏:まず、日本のユーザーの皆様に最高のサービスを提供することに引き続き注力していきたいと思っています。Zabbix ユーザーの皆様が直面する課題は、日本でも他の国でも非常に似ています。なぜならシステムのインフラストラクチャーをより効率的にしていくことは、日本に限らず世界中の多くの企業が考えているからです。

一部の企業はインフラストラクチャーをクラウドに移行していますが、監視のための市場シェアはこれからも拡大するというアナリストからの発表もあり、日本市場は少なくとも数年先まで重要なマーケットであり続けると思います。したがって、私たちは Zabbix をできるだけ使いやすくするために、自動化と問題を迅速に解決するための機能を作っていく必要があると思っています。

新井:ありがとうございます。以前に、Zabbix は既に他の監視製品が利用されている環境においても利用できる統合監視ソリューションを目指すというお話をされていましたが、そちらについてはどのように発展していくのでしょうか?

Vladishev 氏:Zabbix をお客様の統合監視ソリューションへ発展させていくためには、2つの事が重要だと考えています。一つ目は Zabbix は単にデータやメトリクスを収集するだけでなく、別の監視ツールのイベント情報や障害情報を収集し、単一のダッシュボードで可視化できるようにすること。二つ目は他製品も含めたさまざまな情報を収集することで、Zabbix が単一で通知やチケット管理システムなどの他システムと連携することが出来るプラットフォームにするということです。

新井:なるほど、明確に意識している競合ツールが存在する訳ではなく、Zabbix 社としてはオープンソースであることを重視しながら監視機能の精度を高めていくという事ですね。今回お伺いしたいことは以上です。また機会がありましたら、いろいろお話させていただければと思います。ありがとうございました。

Vladishev 氏:どういたしまして。