Zabbix Japan × アークシステム
寺島 広大 氏 インタビュー


2021.08.16/Zabbix Japan LLC

当ページに掲載している写真ですが、撮影時のみマスクを外しています。
インタビュー中につきましてはマスク着用等、感染対策を実施した上でおこなっています。

オープンソースの監視ソフトウェアとして日本で着実にシェアを伸ばしている「Zabbix」。先日新バージョンであるZabbix 5.4がリリースされ、今年秋には次期LTSバージョンであるZabbix 6.0の発表を控えています。

また今年秋には世界最大のZabbixイベント「Zabbix Summit Online 2021」や、日本最大のZabbixイベント「Zabbix Conference Japan 2021」も控え、来年で日本法人の設立から10周年の節目となる「Zabbix」ですが、今回当社メンバーはZabbix Japan LLCの代表である寺島 広大 様(以下、寺島氏)にお話を伺いました。

Zabbix Japan LLC
代表 寺島 広大 氏

—Zabbixの市場動向と取り組みについて

アークシステム 新井(以下、新井):今日はよろしくお願いします。
さて、貴社が設立されて来年で10周年の節目ですが、設立からこれまでを振り返ってのご感想をお聞かせください。

寺島氏:よろしくお願いします。まず設立から10年間、あっという間だったというのが正直な感想です。

日本法人を設立した当初はパートナー企業もまだ6~8社程度でしたが、日本での実績が少ないなかでこれだけの企業がパートナーになってくれたというのはありがたかったうえ、現在では50社を超える企業様がパートナーになってくれている状況なので、ここまで順調にやってこられたと思っています。

Zabbixはマーケティングや営業で販売強化していく製品ではなく、ユーザーからの口コミで広まってきた製品であると考えているので、実際に利用しているユーザーからの要望に応える形でソフトウェアを開発してきたことが結果的にビジネスの成長になった要因であると思っています。

新井:オープンソースのビジネスをするにあたって大変だったことはありますか?

寺島氏:オープンソースはライセンスビジネスではないので、いかにサポートやトレーニングを利用してもらえるかが苦労した点としてあります。 もともと無償のツールなので、サポートやトレーニングにご予算を取っていただくためにメリットを訴求していくことは、時間も掛かりますし、以前からずっと考えている課題でもあります。

新井:Zabbixはオープンソースの監視ツールで国内No.1シェアを誇っていますが、ここまでシェアを拡大できた理由はどのようなところにあるのでしょうか?

寺島氏:まずフルオープンソースで全機能が利用でき、技術情報がネット上である程度参照できる監視ソフトウェアは、Zabbix以外にはあまりない印象を持っています。

さらに商用UNIXやネットワーク機器の監視にも対応しているということもあり、エンタープライズなお客様が採用しやすい機能性を持っていたことも利用拡大の後押しとなっているのではないかと思っています。

以前はコミュニティでの活動を積極的におこなっていた時期もありましたが、Zabbixがある程度普及してきた後は、ソフトウェアの機能強化を継続的におこなっていくことで、結果としてユーザーに安心して使ってもらうことにつながっていると思っています。

新井:そのような取り組みの甲斐もあって、Zabbixパートナー企業も増えてきたのではないかと思います。 先程のお話にもあった通り現在国内のZabbixパートナー企業は50社を超えていて、サービス提供体制やサポート体制は非常に厚くなっている印象ですが、パートナープログラムに関するこれまでの評価や今後パートナー企業に求めていきたいことを教えてください。

寺島氏:もともと日本支社を作った時から、Zabbix Japan LLCはパートナー企業経由でのビジネスしかしないと決めていました。世の中でダイレクトマーケティングが増えていることや、海外ではZabbix社が直接お客様とビジネスしているケースもありますが、日本支社においてはパートナー企業経由の方がお客様にサービスを提供しやすいと考えているからです。

これまでを振り返ってみると、そういったモデルでビジネスをおこなってきたことが結果として良かったのではないかと考えています。

今後パートナー企業に求めることとしては、Zabbixに関する技術力を維持、向上し続けていただきたいと思っています。これはZabbixに限りませんが、技術の進歩は昨今とてもスピードアップしていてソフトウェアの利用者であるエンドユーザーのスキルもどんどん向上しています。 Zabbixは主にサポートやトレーニングをメインとしてビジネスしている製品なので、エンドユーザーへ満足度の高いサービスを提供するためには、パートナー企業の皆様が高い技術力を持ち続けていただくということが重要であると感じています。

新井:ありがとうございます。 私たちも技術の垣根を越えてZabbixだけではなく周辺ソフトウェアも含めたさまざまな技術力を向上させるための取り組みをおこなっていますが、改めて高いサービスを提供するために技術力を磨き続けていかなければいけないことを認識しました。
では次の質問ですが、Zabbixには「Zabbix Summit」や「Zabbix Conference Japan」などの大きなイベントが毎年開催され、多くのお客様が参加されています。これらのイベントを定期的に開催していることにはどういった狙いがあるのでしょうか?

寺島氏:これらのイベントは、既にZabbixをご利用いただいているユーザー向けに新機能や開発動向を紹介する機会であるということと、これから新しくZabbixをご利用いただく方向けにZabbixを知ってもらう機会であるという2つの意味合いがあると思っています。

いずれの場合でも、単にホームページや記事などで文字化された情報を発信するだけでなく、私たちから直接口頭で説明することで、新機能を追加した背景や目的なども説明でき、参加者の理解度という意味でもこういったイベントを開催する意味はあると思います。

またZabbixに限らずソフトウェア製品は開発が継続的におこなわれていることを発信し続けることが必要だと思っていて、Zabbixユーザーに安心感を持ってもらうためにも毎年の定期的なイベント開催は重要だと思っています。

新井:単に営業機会を増やすという意図ではなく、Zabbixへの信頼性を維持、向上するために継続的にさまざまな場で情報発信しているのですね。

では次の質問ですが、今後物理サーバーそのものが減少していくことが想定されます。故にサーバー監視そのものも今後減少していくのではないかという危惧を持っているのですが、そちらについてはどのようにお考えでしょうか?

寺島氏:恐らく市場的には今後APM(アプリケーションパフォーマンス管理)の監視ソフトウェアが伸びてくるのではないかと思っています。クラウドネイティブになってくると、インフラよりもアプリケーション監視の重要性が高まってくるからと感じているからです。それに伴いZabbixについてもAPMに近い監視機能を実装することも検討されていて、今後新機能として実装される可能性はあります。

ただし、Zabbixは事業アプリケーションのパフォーマンスではなく、主にインフラ領域の方が利用されているツールという側面もありますので、そのあたりのバランスを踏まえて検討していきたいと思っています。

新井:昨今増加しているクラウドネイティブやIoTデバイスの監視についても伺いたいのですが、これらの監視は常に新しい機能への追随が求められたり、さまざまな監視要件があったりと難しいイメージがあります。 こちらについては、どうお考えでしょうか?

寺島氏:クラウドの監視そのものは今後リリースされるZabbix6.0やZabbix7.0で少しずつ機能が実装されていく予定です。ただ監視というのはあくまでデータの集まりであり、その取得したデータをどのように見たいかはユーザーによって異なると思いますので、Zabbixにできる最初のステップとしてクラウドからきちんと情報が取得できることを目指していきます。例えばAmazon CloudWatchとの連携など、まずはそのあたりの機能からになると思います。

またIoTデバイスの監視については、Zabbixは現在ModbusとMQTTという2つのプロトコルに対応しています。IoT監視のニーズ自体はそれなりにあると思っていますが、しきい値を設定してアラートをあげるということであればZabbixでも対応ができます。ただ大規模なものとなってくると監視サーバーやセンサーだけではなく、データを送信するためのプラットフォームも含めた環境が必要となってくるため、IoT監視でZabbixを活用できるかどうかは監視したい環境次第な部分もあると思っています。

—Zabbix保守サポートについて

新井:次にZabbix保守サポートについて質問させてください。
これからZabbix保守サポートを検討される方向けに、サポートを利用するメリットを教えていただけますか?

寺島氏:保守サポートというと過去に他サービスを利用した経験からさまざまなイメージをお持ちの方がいらっしゃると思いますが、Zabbixの場合はサポートの窓口としてエンジニアが対応しているため、原因調査や解決策の提示、バグそのものの修正を迅速に対応していけるということがメリットなのではないかと思います。

また話は少しそれますが、Zabbix Conference Japanでは実際にサポートをおこなっているエンジニアの登壇もおこなっていて、サポートを利用している方、これからサポートを利用する方に安心感をもっていただけるような取り組みも少しずつはじめています。重ねての話にはなりますが、Zabbixはライセンスビジネスではないので、サポートの品質が重要であると考えています。

そのため、機械的に対応するようなサポートではなく、柔軟でスピード感のあるサポート品質にしていきたいと思っています。

新井:確かにZabbix保守サポートにはEOSLを迎えたバージョンの延長サポートの提供や、自由にサポートベンダーを選べるような柔軟があり、他の商用製品にはない強みとなっている印象があります。

寺島氏:これは社内でも話をしているのですが、サポートの範囲に関わらずユーザーが困っているのであればできる限り助けよう、というスタンスでやっています。発生している問題が監視対象側の原因によることも多く、環境によっては私たちに知見がないケースもありますが、見方を変えれば新しい技術を学べる機会であるとも捉えられるので、できる限り前向きにやっています。

Zabbixの場合、監視対象やデータ収集など他の環境と連携する部分が多く、明確にサポート範囲の線引きをすることが難しいと感じていますが、あまり線を引きすぎてしまうとお客様の満足度が上がらない気がしています。そのため、私たちとしてはできる限り対応するというスタンスでサポートをおこなっています。

新井:保守サポートに寄せられる問い合わせ内容はどのようなものが多いのでしょうか?
また以前に比べて変わってきていたりするなどの傾向はありますか?

寺島氏:昔は複雑な問題に関する問い合わせが多かったような気がしていますが、最近はアプライアンス製品なども普及し、はじめてZabbixを触る方が増えているからか、よりシンプルな問い合わせが増えていると感じます。反面、Zabbixが機能強化するにつれてソースコード自体も複雑になってきているので、問題発生時における調査の難易度は上がっていると思います。

シンプルな質問に対しては、Zabbix Enterpriseカスタマーポータル上にナレッジベースを作り継続更新しているので、そちらをご覧いただくと役に立つと思います。

Zabbix Enterpriseカスタマーポータル
https://enterprise.zabbix.co.jp/

新井:ちなみにユーザーから寄せられる問い合わせで、改善要望の多い機能はあるでしょうか?
また今後実装予定の機能などはありますか?

寺島氏:日本のユーザーからの機能改善要望はあまりないのが現状です。
システム構築プロジェクトにおいては納期の問題もあり、次期バージョンの実装まで待てず、自分たちでなんとかしようというケースが多いのではないかと思います。どんな小さなことでも構わないので、運用を楽にするような機能など改善要望があれば、ご連絡をいただければと思います。

またサポートの問い合わせ内容をみているとログ監視周りに課題が多いような気がしています。
これは日本で従来使われてきたソフトウェアと根本的に考え方が違うということが影響しているのではないかと思いますが、Zabbixのロードマップでも今後Zabbix 6.4でログマネジメント機能の実装を検討しています。

—今後のZabbixの製品動向について

新井:今秋に最新LTS版のZabbix 6.0のリリースを控えていますが、新機能やこれまでのバージョンに比べて改善されたポイントを教えてください。

寺島氏:まずZabbix 6.0の新機能の目玉としては、高可用性(HA: High Availability)、パフォーマンス周りの話です。これには2つの機能があり、1つ目はZabbix Proxyを使ったロードバランスの機能です。これはProxyを利用しているZabbix環境において、特定のProxyが高負荷または停止するといった問題が生じた場合に、Zabbixサーバー側であらかじめ設定しておいた切り替え条件に従って自動的に他のProxyに切り替えるという機能です。

2つ目はNative HAですが、これはActive-Standbyのクラスター機能をZabbixに実装したもので、片系のZabbixが落ちた場合、自動でもう1台のZabbixに切り替わる機能です。これらの機能により、Zabbixの対障害性やスケーラビリティの向上に役立ちます。

またZabbix 5.4で既に実装されているダッシュボード画面のレポート出力機能は、利用したいユーザーによっては使いやすくなっているのではないかと思います。その他にも機械学習(ML: Machine Learning)対応やベースライン監視などの実装も予定していますが、まだ機能の実装が完了していないため詳細な情報についてはこれからです。

新井:昨年開催されたZabbix Conference Japan 2020で貴社から「HTTPエージェントを利用したクラウドAPI利用」についての登壇がありましたが、今後機能追加やサポートの充実化など検討していくのでしょうか?

寺島氏:クラウドAPI利用についてはニーズが多いので、なんらか検討していきたいと思っています。
現在Zabbixラトビア本社にテンプレートや個別のアプリーション監視機能を実装するためのチームが存在していて、要望の多いものから順に開発を進めています。その中でもクラウド監視に関する要望も多いので、近い将来ロードマップに関連する機能については実装されていく予定です。

新井:貴社のホームページでは既にZabbix 6.0の次期LTS版であるZabbix 7.0についてのロードマップが公開されています。こちらにもCloud Nativeについての記載がありますが、具体的にはどのような機能追加がされる予定なのか、教えてください。

寺島氏:Cloud Nativeについては、ZabbixサーバーやZabbix Proxyの冗長性やスケーラビリティの機能をクラウドでもより使いやすくするための機能改善を考えています。具体的なところはこれからですが、詳細が分かり次第イベントやWebサイトなどで発表していきたいと思います。

また現時点で取り込んで欲しい機能や要望があれば、どんな小さいことでも構いませんのでZabbix Japan に要望として挙げてください。

新井:これからクラウドへの対応も徐々に実装されていくのですね。
今回のインタビューを通じて、さまざまな視点でユーザーのことを考え実直にZabbixの監視機能としての性能を高めることに注力されている印象を持ちました。アークシステムとしても、継続的にZabbixを利用する上での機能要望を挙げ、監視性能の向上に貢献していきたいと思います。

今回伺いたいことは以上です。ありがとうございました。

寺島氏:こちらこそありがとうございました。